« ネット情報選別システム | トップページ | “人材”不足 »

2006年8月27日 (日)

チップって何?

すかいらーくが上場廃止したようです

すかいらーく、9月19日付で上場廃止…東証

 東京証券取引所は18日、経営陣による自社株の買収(MBO)の実施を正式に決めた外食大手のすかいらーく(東証1部)株式を、9月19日付で上場廃止すると発表した。

今月19日から上場廃止を投資家に周知させる「整理ポスト」に割り当てる。

 すかいらーくが18日の取締役会で、MBO実施のため、投資会社の完全子会社となることを正式に決めたことから、上場廃止基準に抵触した。

(2006年8月18日19時51分  読売新聞)

 すかいらーくは1970年に創業したレストランチェーンです。日本より20年は進んでいるといわれる米国のレストランチェーンを手本として、全国にチェーン展開を進めて大成功を収め、日本を代表する企業へと成長しました。

 しかし、すかいらーくが米国を手本としながら、導入しなかったものがひとつあります。

 それは“チップ”です。

 改めて“チップって何?”と聞かれると、いまいちわからないものです。米国を例にとって“チップ”の役割について説明します。

 米国においてチップは、サービスの対価として渡すもので、テーブルサービスを行う店では必ず払わなければなりません。払わないと訴訟を起こされて大抵負けます。(カウンターで商品を注文し、受け取って自分で片付ける店では払う必要はありません。ここでいう”サービス”とはファストフード店でやること以外と考えてください。)

 米国におけるレストラン業では、サービスを行う”サーバー”と呼ばれる人たちは大抵の場合、州の最低時給に近い時給で雇われており、収入の多くをチップに頼っています。

 レストランでは各テーブルごとの担当が決まっており、ファーストオーダーから、会計までひとりのサーバーが担当します。彼女(彼)らは、能力が非常に高く(100名前後のお客の名前を覚えるのは当たり前。忙しい中でも常に笑顔を絶やさずキビキビ働き、推奨販売もキッチリこなします。)コーヒーショップでは5~8卓、ステーキハウス等、やや高級な店では、3~5卓担当するのが一般的です。

  コーヒーショップにおいて、忙しい時間帯だと客席は1.5回転ほどします。一卓当たり4名座ったとして計算すると、一人で8卓担当した場合には一時間に48名を担当することになります。この場合のチップ収入は一人1000円食べたとして、10%で100円、48名分で4800円にもなります。すでにキャバクラの時給より高いですね。

 これがステーキハウスならどうでしょう。やや回転数が落ち、担当するテーブルが3卓、一時間10名ほどになりますが、その分客単価が2500円ほどに増え、チップも20%ほど貰えるので一人当たり500円、10名分で5000円ほどになります。

 米国のトップチェーンでは年商7億売る店(もちろん、メインはハンバーガーです)も存在し、そういった店ではチップ収入だけで年間1億以上にもなります。無論、そういったお店で働いているサーバーは大学生等、教養の高い人材が多く、みなさん美男・美女ぞろいです。

米国においてレストランサービスは割がよくて魅力的な仕事なのです。

 一方で、不明瞭なチップ制度が、経済に悪影響を及ぼすという考え方もあります。次はチップの果す経済的な役割についてお話します。

チップの経済的な役割ですが、やはり一番にあげられるのは、働くサーバーと、企業の目的が共有されるということです。

 レストラン業において売上とは、客数×客単価です。客単価はレストランの業態でほぼきまってくるので、企業の営業目的は客数の増加に絞られます。一方、働くサーバーの収入も客数×(客単価×チップ率)で決まります。チップの額も客単価=レストランの業態でほぼ決まってくるので、サーバーの目標もやはり客数の増加に絞られるのです。

 そして客数=収入ということになれば、忙しい時間により多くの人員を配置できます。レストラン業は時間帯ごとの客数の増減が大きく、時給制ではピーク帯の人員が確保できないという構造的な欠陥を持っていますが、チップ制はそれを補ってくれるのです。

 そして、客数で収入が決まるということは、忙しい店ほどよい人材が集まる店になります。そしてさらに客数が多く人気が出れば出るほどさらにいい人材が集まり、さらによい店になってお客もさらに満足するという相乗効果を生みだしていくのです。

 また、チップ制は分かりやすい能力主義と成果主義でもあります。サーバーはその能力によってより多くの卓をまかされ、チップという成果を受け取ります。そしてその与えられたポジションで客席の回転数を上げ、そしてさらにいいサービスをすることでリピーターを増やし、その結果、増えた客数×チップという成果を受け取ることが出来るわけです。実際、出来るサーバーはチップ収入でプール付の家を建てることも夢ではありません。そして経験があるサーバーは60過ぎてもなお現役でやれるのです。

 チップはレストラン業への人材の供給と蓄積を生み出し、業界全体の利益となっているのです。

 時給制で働く日本では考えられないことです。時間=収入である限り、いったん入社してしまえば頑張ってる人も頑張らない人も、店が繁盛しても繁盛しなくても得られる収入は一緒(時給の差は出ますが誤差の範囲内です)です。その結果、企業の目的と働く人の目的を共有することは難しく、勢い精神論が幅を利かせることとなります。

 もちろん日本でも良いサービスを受けることは出来ますが、彼ら(彼女ら)は偉大なアマチュアであるといわねばなりません。良いサービスをしながら、サービスで収入を得られず、また、よいサービスで店の人気を上げても、収入が増えるわけでもありません。忙し過ぎる店は新人がいつかないため、負担だけが増大し、多くのサーバーは気力が尽きたときにその店を去ることとなります。そして店の魅力はどんどん失われ、消費者はお気に入りの店を一つ失うこととなります。

 すかいらーくがMBOに踏み切った主な理由は業績不振ですが、その原因の大部分を占めるのは、昨今のパート賃金の相次ぐ賃上げによるものです。そのために不採算店の大部分を閉鎖せざるを得ず、それが株主の同意を得られないと判断したため、意思決定の迅速化を図るために今回のMBOに踏み切ったわけです。

 飲食業は他の流通業とは違い、マンパワーに依存する割合が大きく、効率を上げようとすれば、即サービス低下に直結してしまいます(ドリンクバーがいい例です)。サービス力を上げようと思って価格を上げれば競争に負け、逆に下げれば、サービス低下につながってやっぱり負けてしまいます。しかし、時給制では従業員のサービス力を評価し、正当な賃金を支払うことは不可能に近い。

 日本でも、チップ制、もしくはチップ制に変わる制度の導入が必要なのかもしれません。

 思い起こせば36年前、すかいらーくの1号店で導入しておけば今頃は一定の評価を得、チップも市民権を獲得していたかもしれませんが、もう後の祭りですね。必要な経費を削って窮地に陥るいい反例としましょう。サービスは“0円”ではないのです。

サービスは0円ではないかな?と思った方はクリック!(ブログランキングへ)

 漠然と飲食業はサービスが悪いと感じている方も少なくは無いと思います。

 しかしながら、それは企業努力が足りないという面もありますが、制度的な問題も多いと感じるきっかけになっていただければ幸いです。

 “サービスには金がかかる”という概念は、日本じゃ受け入れがたいかもしれませんが、実際かかっているからしょうがない。“収入格差”という問題は受け入れ側の企業の問題というよりは、生産物に対する“必要な対価”を得られないことによって起こるのです。

|

« ネット情報選別システム | トップページ | “人材”不足 »

コメント

 いやぁ、面白かった!
 うまいラーメン屋や気に入りのレストランがどんどん廃業してしまう理由が分かりました。
 それにしてもtakayuuさまはどこでこんなネタを仕入れたのでしょうか?本屋さんにもファミレスの内情を暴露した本はないはずです。
 わずか2ヶ月でランキング7位まで上げた好成績に納得!
 私は昨年5位まで上げましたが、1年かかりましたからね・・・

投稿: 柳生すばる | 2006年8月27日 (日) 12時49分

はじめまして!
チップ制の導入に賛成ですね。お客様に満足していただけるサービスを常に心がけて仕事に臨み、そうすることによりお客様からの信頼を得ることのできるスタッフとそういう意識に欠けるスタッフが同じ職場で仕事をしなければならないというハンデ・・・これは正直やる気を無くしますよね・・・結果、どういうことになるかというと・・・必要とされるスタッフが辞めていってしまい、先に書いた後者だけが残り、サービスの仕事を志した新たな人材が入っても店の体質が変わらない限り同じことの繰り返しだと思うんですね。
そこで、チップ制が導入されれば優秀な人材はよりやり甲斐が見出せ、もっと頑張れると思うんです。決してチップの為に仕事をするのではなく、自分がやった事に対するお客様の気持ちがチップとなって還ってくるわけですから・・・
イタリアのリストランテで働いていた時、お帰りになる際、紙幣を小さく折って直接私の手に渡してくださったお客様がいらっしゃったんです。この仕事をやっていて良かった!と思えた瞬間でした。
その時のお客様の気持ちがものすごく嬉しかったんです。遠く離れた外国の地で私のサービスが充分通用する!という喜びを味わえた瞬間でもあったのです。
日本の場合、いい仕事が出来ても出来なくても同じ時給というのはおかしいと思いますね。違って当然!なんじゃないでしょうか・・・もっと個人の能力というものを尊重するべきなのでは??

投稿: salute | 2006年9月29日 (金) 22時44分

コメントありがとうございます。
 個人の能力も尊重し、チームワークも評価できるようなシステムが一番良いですね。その方が日本に向いているような気がします。
 チップ制もそうですが、忙しければ忙しいほど収入が増えるシステムが一番いいと思います。そうなれば人気店ほど人が集まる⇒自然と能力による淘汰が進み⇒皆がチームワークよくやる気をもって働ける職場作りが出来るようになるのではと思います。

投稿: takayuu@管理人 | 2006年9月30日 (土) 15時47分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/118475/2971924

この記事へのトラックバック一覧です: チップって何?:

« ネット情報選別システム | トップページ | “人材”不足 »